井戸冷機工業株式会社 〒090-0818 北海道北見市本町4-10 TEL:0157-23-3333
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                                                北海道新聞 朝刊 17.07.20

「本物の技術」 業界注目
    「サーモダイナミック」開発の新冷凍庫

   鮮度封じ込め食材価値一変
 鮮魚も出荷調整可能に

 -70度の超低温で生鮮食材などを一気に凍らせる新型冷凍庫が,、一次産業や食品加工業界の注目を集めている。従来の常識を超えた急速冷機で「パサパサしてまずい」「異臭がする」といった冷凍品につきものの欠点を解消し、新鮮な味を保てるためだ。二流三流扱いだった冷凍食材の価値を引き上げる新型機を開発したのは、札幌のベンチャー企業「サーモダイナミック・システムズ」(井筒忠雄社長)。支援する北海道地域総合振興機構(はまなす財団)は「付加価値の高い冷凍品を道外に発信できる」と普及に力を注いでいる。

■タイから商談

 「これは本物の技術。果物のマンゴスチンなどに即使える」。六月、釧路市内のカニ販売店「かにきち」で、タイの食材商社の日系人女性社長、リョウコ・イスランクーナ・アユタヤさんは驚きの声を上げた‥サーモ社の超低塩冷凍庫が試験設置されていることを知り、冷凍毛ガ二などの味を確かめにきたのだ。タイから船便で果物を輸出するには、完熟度60%程度での出荷が常識だが、アユタヤ社長は「これで完熟度100%の昧を世界に広められる。導入の方向で商談をまとめたい」とその場で決断した。現在、′サーモ社には道内の一次産業、食品加工関係者や自治体の問い合わせが相次ぎ「かにきち」にも視察者が殺到する。

■-70

 反響が大きいのは、冷凍食材の商品価値を一変させる可能性を秘めているためだ。食材が最もよく凍る温度帯は零度から-5度。従来のようにゆっくり凍ると、細胞内にできる氷結晶が大きくなるため、品質維持が難しい。最大で-70度の冷凍力をもつサーモ社の新型冷凍庫は短時間で-5度に到達することで、この課題を一気に解決した。

 道立食品加工研究セソターなどの調査によると、厚さ6センチの生マグロの切り身が零度から-5度に達する時間は、わずか5分。「解凍後も生の味が再現された」(はまなす財団)最大で-38度と冷凍力が半分程度の既存機は、同じ温度帯に達するのに一時間もかかり氷結晶は細胞を破るまでに大型化。解凍後、うまみ成分や水分は、ドリップと呼ばれる汁となて流出してしまった。

■「ブランドに」

 「市場に翻弄される構造を何とかできるかもしれない」。はまなす財団はサ―モ社を支援する理由をこう説明する。道内の一次産業関係者らは長年、豊作や豊漁による価格下落などに苦しんできた。二年前、値崩れから道東サンマ漁が自主休業に追い込まれた例は記憶に新しい。農家が価格低迷から、収穫した野菜などを廃棄することも珍しくない。それだけに新型冷凍庫への期待は高い。道東の漁業幹部は「付加価値の高い冷凍サンマをオフシーズンに出せるなど、出荷コントロールが可能になると語る。」ただ、本格流通に向けては課題も多い。はまなす財団は「これまでの冷凍品と何が違うか。消費者に理解してもらわないと何も始まらない」とし、「業界の垣根を越え、超低温冷凍食材を北海道ブランドに育てる必要がある」と訴える。

 通面の改善も欠かせない。食材を完ぺきに急速冷凍さても、トラックなどによる運送過程での温度管理が徹底されなければ、品質維持は困難。食材が温度変化にさらされると水分が飛んだり、他の食材のにおいがつくなどで味が悪化し、急速冷凍した意味が失われてしまうためだ。このため、同財団は今後、運送業界などにも車両搭載型の新型冷凍庫普及を促すなど、「出荷から販売に至るまでの低温流通システムの構築も必要」とし、関係機関との協力を強める考えだ。

2526日に釧路で公開   冷凍・解凍実験も

 はまなす財団は25、26日の両日、釧路市内でサーモ社の新型冷凍庫説明会を開く。参加者が持ち込んだ食材の冷凍実験も行う。説明会は、両日とも同じ内容で午後一時から。

会場は釧路工業技術センター(釧路市鳥取南七)とカニ販売かにきち(同市文苑一)財団担当者やサーモ社の井筒忠雄社長らが、性能面の説明を行うだけでなく、かにきちに試験設置した冷凍庫で、食材を冷凍、解凍し、状態などを確認してもらう。参加費用は無料だが、事前申し込みが必要。問い合わせは同財団

■新技術のポイントは

冷媒ガスを最適制御  コストと性能を両立

 サーモダイナミック・システムズは、社長の井筒忠雄さん(48)が、昨年6月、札幌に設立したベンチャー。それまで埼玉県内で冷凍庫開発に取り組んでいたが、「自分の技術を理解し新型冷凍庫を普及できる地域は一次産品などのニーズがある北海道しかない」と移住に踏み切った。広島県出身の井筒社長は20年近く前、国内初の人工造雪システムを開発、全国のスキー場に普及させた冷凍機関連の専門家。こうした経験を生かし、新型冷凍機を完成させた。

 冷凍庫の仕組みは、圧縮して液化した冷媒ガスを一気に減圧、膨張させて低温化し、庫内の熱を奪って気化させる。気化したガスは、再び圧縮して液化する。同社はこの冷凍サイクルの要所に流量センサーなどを設置、最適な圧力管理で冷媒ガスをコントロールする。圧縮装置を既存機の約4分の1の低圧力で稼働させることを可能にした。新型冷凍庫は超低温化とともに消費電力量の半減にも成功。はまなす財団は道立工業試験場などを通じて能力を検証し、連続100時間運転を繰り返しても「超低温が維持され、内部に霜がつかないことも確認した」という。

-70度級の冷凍庫は大手メーカーなどは特注品に限られ、量産タイプはない。価格も一時間に100`処理できる機器だと約6000万円。サーモ社は2000万円程度に抑えた。しかも、省エネ効果もある。はまなす財団も「漁協や農協が手を出せる価格帯のため支援対象にした」。としている。

       新型冷凍庫に張り巡らされた冷媒の菅。井筒社長は「この高性能機で、道内の一次産業振興に役立ちたい」と語る

(はまなす財団)
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