井戸冷機工業株式会社 〒090-0818 北海道北見市本町4-10 TEL:0157-23-3333
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                                                                                北海道新聞 2007.07.20

 零下70度 急速冷凍設備

 うま味保持 省エネも実現

 零下七0度の超低温急速冷凍で食材のうま味を一気に閉じこめ、解凍後も「生の味」を再現できる。しかも消費電力は従来型の業務用冷凍庫に比べ、最大50%カット−。食糧基地・北海道にとって、そんな夢のような冷凍設備を開発したのが、札幌のベンチャー企業、サーモダイナミックシステムズだ。従来の冷凍食品のイメージを覆す画期的な技術で、二年前の実用化以降、すでに道内の運送業者や食品加工会社など五社が導入。井筒忠雄社長(50)は「付加価値を高めることで道産品のブランド力を高めたい」と意気込む。

 ●細胞を壊さず
 この新技術の最大の特徴は、零下四〇度が限界だった従来型凍結庫と同じ一般的なシステムを用いつつ、大幅な超低温化を実現させたことだ。
 
 冷凍庫は、フロンなどの冷媒ガスに圧力を加えて液化し、それを減圧、膨張させた際の気化熱で庫内を冷やす。庫内を零下七〇度にするにはこれまで、冷凍機を二台つなげた二元冷凍式など特殊なシステムでなければ無理だったが、「圧力のコントロールをセンサーで効率化」(井筒社長)することで、一台で超低温を可能にした。
 
 零下七〇度だと何が違うのか。「一気に凍ることで食材の細胞が壊れず、冷凍前の味を再現できる」と井筒社長は言う

 細胞内の水分と周辺の水分には濃度差がある。ゆっくり凍らせた場合、細胞周辺の濃度の薄い水分が先に凍り、この氷結晶が細胞を押しつぶしてしまう。その結果、解凍した時にうま味が逃げ出てしまうのだ。

 だが新技術を用いた冷凍庫では、細胞の内外の水分をほぼ同時に氷結できる。細胞内の水分が凍る「最大氷結晶生成温度帯」は零下一〜五度。従来型では、この温度域に達するのに五十五分かかるが、新型はわずか六分で済む。

 ●消費電力半減
 工夫は冷媒ガス圧縮の効率化だけではない。通常、庫内温度と熱交換機の表面温度には一〇〜一五の差を設けている。「ある程度の温度差がないと、装置内に張り巡らした銅管の中の冷媒液がうまく流れない」(井筒社長)からだ。

 だが温度差が大きいと、冷たい水をグラスに注いだ時、グラスの表面が結露するのと同じ理由で、冷却装置に霜が付きやすくなる。霜が付くと冷却能力が下がり、エネルギー効率も悪くなる。

 新型では、配管や装置の設計を最適化することで、庫内と熱交換機の温度差を五度程度に抑制。この小温度差運転と、冷媒ガスの凝縮圧力最適化が相乗効果を生み、最大で消費電力半減という省エネ効果をもたらした。

 画期的な技術を実用化できた背景には、井筒社長の長年のノウハウ蓄積と、絶え間ない実験の繰り返しがある。

 井筒社長は世界初の人工造雪機開発に携わった冷凍技術の専門家として知られる。大阪電気通信大を卒業後、郷里の広島県にある建築金物会社に入社。製品・技術開発を担当していた一九九〇年、同県内でスキー用品店経営する知人から「一緒に人工造雪機をつくらないか」と持ちかけられた。

 この誘いに有志三人で事業部を立ち上げ、三年がかりで造雪機を開発。一時は年間の売上額が三十億円にもなる業績を上げた。だが井筒社長は「スキー産業の先が見えてきた。この技術を生かして、零下六〇度レベルの冷凍庫をつくりたい」と転身を決断。二〇〇〇年、人工造雪機の製造を委託していた中山エンジニヤリング(埼玉)に専務として移籍した。

 同社で実験と改良を重ね、〇四年夏、ついに新型冷凍庫の原型が完成。釧路のカニ販売店「かにきち」での実証実験が北海道地域総合振興機構(はまなす財団)の目に留まり、同財団のバックアップを受けて〇五年九月にサーモ社を設立。実用化にこぎ着けた。

 ●漁協とも連携
 新型冷凍庫導入の第一号となった運送業のY・G物流(札幌)は昨年、高品質冷凍の道産水産物を韓国に輸出。子会社で冷凍食品製造のYGコールドシステム(同)は今春、冷凍すしや水産加工品の出荷を始めた。

 網走、根室管内の水産加工業者などでも導入が相次いでいるが、冷凍庫を販売するだけではない。

 七月から、松前さくら漁協などと共同で、松前産マグロのブランド化に向けた冷凍実証実験を始めた。井筒社長は「付加価値を付ければ高く売れ、雇用促進にもつながる。道内の漁協や水産会社と手を組み、イメージとしてのブランドではなく、本当の意味での良い物をつくりたい」と夢を広げている。
 
(はまなす財団)
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